いい加減に復刻しなさい!Richard Beirachの「EON」
Musician●Richard Beirach(piano)
Title●Eon(1974年)
■ディスクユニオンで購入
かつてECMで中心的な働きをしていた鍵盤楽器奏者Richard Beirach(リチャード・バイラーク)による初リーダー作です。1974年リリース。参加メンバーはFrank Tusa(bass)、Jeff Williams(drums)というピアノトリオ構成。Frank TusaとJeff WilliamsはBeirachも参加したDave Liebmanの名盤「Lookout Farm」繋がりです。BeirachはBill Evans直系のフォロワーですが、ECM総帥マンフレード・アイヒャーが標榜する独自の美意識とうまい具合に融合し、いかにもECMサウンドと呼ばれる諸作品を残しています。無比ともいえる透徹したリリシズム、癒しと揺らぎを同時にもたらす叙情性、そして音から広がる北欧の凍てつく氷原を彷彿とさせる表現力。典型的な70年代ECMサウンドといったらまさにこれしかありません。
特に12分にわたって繰り広げられるMiles Davisの名曲「Nardis」での熱演は極度な緊張感に漲り、聴く者を圧倒します。「Nardis」は折に触れてBeirach自身の手で再演されていますが、やはり「Eon」におけるプレイがベストテイクだと確信します。ややフリーキーなTusaのベースソロ、懸命に盛り立てるWilliamsのサポートも素晴らしいの一語。
しかし、そんなBeirachとECMとの「蜜月時代」も1980年頃に勃発した「事件」によって思わぬ終焉を迎えます。当時、Beirachはバークリー音楽院時代からの友人John AbercrombieやGeorge Murazらと組んで実に耽美的な作品(Abercrombie名義の「Arcade」「M」「Abercrombie Quartet」)を制作していました。当時、Abercrombieは失恋によって制作活動に支障が出るほど落ち込んでいました。そこで友人思いのBeirachは意気消沈するAbercrombieを励まそうと、レコーディングの合間に愉快なハードバップを聴かせていました。そこへたまたま通りかかったのがECMの総帥、マンフレード・アイヒャー。どういう訳かオールドスタイルのジャズを必要以上に嫌悪するアイヒャーは速やかに演奏を止めるよう命令を出したそうです。しかし、その一方的な命令に立ち向かったのが男気あふれるBeirachです。何と猛然と絶対権力者アイヒャーに猛抗議をします。これも親友Abercrombieを思っての行為です。Beirachはこの事件以来、完全にECM、アイヒャーと袂を分かつことになってしまいます。
しかし、ここで腹の虫が治まらないのがアイヒャーです。公衆の面前で恥をかかされた彼はBeirachのリーダー作はもちろん、客演参加の音源まで廃盤扱いにしてしまいます。それ以来、Beirach関連の音源は日本では復刻されるものの、いまだに本家ECMとしては廃盤扱いのまま(最近になってMP3配信が始まっていますが)。Beirachが来日した折り、本国では入手困難な自らの音源を買い漁って帰ったという悲しいエピソードもあるほどです。
アイヒャーよ、いい加減に名演ぞろいの諸作品を復刻しなさい。あなたはあまりに大人げない!
●Musicians
Richard Beirach / piano
Frank Tusa / bass
Jeff Williams / drums
●Numbers
1. Nardis
2. Places
3. Seeing You
4. Eon
5. Bones
6. Mitsuku
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