テクニカル系ギタリストAndy Timmonsの新譜はビートルズカバー「Plays Sgt.Pepper」
Musician●Andy Timmons(guitar)
Title●Plays Sgt.Pepper(2011年)
■Amazonより購入
元「Danger Danger」の技巧派ギタリストAndy Timmons(アンディ・ティモンズ)の久々の新譜が出たので早速入手しました。そういえば春先に来日公演を行っていましたね。2011年リリース。このアルバムは確か数カ月にリリースされる予定でしたが、なぜか発売延期の憂き目に。やっと発売になってホッとしているところです。もしかしたら許諾関係で揉めていたのでしょうか。
アルバムタイトルから一目瞭然ですが、1967年にビートルズがリリースし最高傑作と言われている「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」をまるまるカバーしたもの。Andy Timmonsのビートルズ好きはいまになって始まったことではないので、ファンにとっては特段驚くことではないのですが、まさかアルバム全曲をカバーするとは思いませんでした。オーバーダブらしいオーバーダブは一切なし、ギター、ベース、ドラムという究極のシンプル構成。ボーカルも一切なし。ライブ感を非常に大切にしたいといいうTimmonsの意思がひしひしと伝わってきます。個人的には少しはボーカルもあるだろうと想像していましたが、ギター1本で勝負とは正直驚きました。結果論としてはギター1本で正解なのではないかと思います。前作「Resolution」の延長線上にある音作りといっていいでしょう。
#1 Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
オリジナル同様、オープニングはこの曲。原曲は当時の世相もあってエレキギンギンでしたが、こちらは比較的ゆったりとスタートします。ただすべてのベースとドラム以外はすべてギターでこなしているので、傍から受ける印象よりもはるかに難度が高い曲だと思います。しかし、そうとは感じさせないのが匠の技。私などはあまりの見事さに釣られて歌い始めてしまったほどです。
#2 With a Little Help from My Friends
オリジナルはリンゴ・スターが歌っていました。Beatlesはリンゴとジョージにも最低1曲は歌わせるという不文律があったのです。#1から流れるように展開するあたりは原曲のイメージそのまま。
#3 Lucy in the Sky with Diamonds
オリジナルはハープシコード的な鍵盤で始まりますが、当然ギターでボーカルの重厚感はコードワークで完全カバー。何という恐ろしい奏法でしょう。
#6 She's Leaving Home
オリジナルはハープのような楽器で始まりますが、ここも当然ギターです。とろけるような甘いメロディーを完全再現してしまう力技にはただただ呆然としてしまいます。
#7 Being for the Benefit of Mr. Kite!
オペラ的、ミュージカル的な難曲です。オリジナルの複雑怪奇さ(特にボーカル)をここもたったギター1本で再現。
#11 Good Morning, Good Morning
オリジナルはレノン作。ブラスを多用しやたらリズムチェンジが忙しい曲ですが、これもいとも容易く再現。何ということでしょう。
#12 Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)
オリジナルではやや散漫になりかけた雰囲気を乾坤一擲、一挙にエンディングへと繋げる役目を果たしていますが、こちらではむしろ次曲へのブリッジ的な働きをしているように思えます。
#13 A Day In The Life
御大Jeff Beckも好んでカバーしているアルバムの代表曲。元を正せは曲前半と後半がレノン、曲中盤がマッカートニー作でそれぞれ別々に作った曲を合体させたもの。考えてみれば乱暴な作り方ですが、結果論としては違和感なく成立してしまったという不思議な曲です。先行してJeff Beckが散々プレイしているのでTimmonsとしては冒険ですが、こちらも甲乙つけがたい。ただ醸し出す色気という点ではJeff Beckのほうが数段上だと思います。
#14 Strawberry Fields Forever
この曲のみアルバム未収録でシングルカットされました。B面は「Penny Rain」。形式的にはボーナストラックの形ですが、ほぼ同時期に録音されているのでまったく違和感はありません。オリジナルはオルガンのような鍵盤で始まりますが、コードワークでカバー。中盤から盛り上がるソロにはただひたすら感動してしまいます。
最後に。某巨大通販サイトでこの作品に対するレビューが載っていました。曰く「早弾きなど、ほとんどなし」「楽曲もあまりよろしくない」「オヤジロック」…。いやー、誰がどのように批評するのは構わないと思いますが、あまりに的外れだと流石になんだかな~と思います。そりゃオリジナル曲を知っていれば、早弾きの場面はある程度限定されることは容易に想像できます。いや、ましてや「楽曲もあまりよろしくない」とは、オリジナルの完全否定なのでしょうか。まさかオリジナルを聴いたことがないのでは? まあ、「オヤジロック」についてはまったく反論の余地無しですが。
なんでもかんでも手放しで褒める全方位型レビューというのもどうしたものかと思いますが、ある程度聴き込んだうえで、さまざまな視点から批評することは投稿者としての最低限の心得ではないかと。日本ではレビュー文化が育たないと昔から言われています。しかし、感情にまかせた感想レベルのものならあふれかえっています。それらすべてが無駄だとまでは言いませんが、ネットとはいえやはり公共の場であるからには、読んで少しは得した気分になりたいです。レビューを読む側が知りたいのは、その人が商品を実際に手にして得られたリアルな使用感であり、それをもとに購入するかいなかを判断するわけですから。
●Musicians
Andy Timmons / guitar
Mike Daane / bass
Mitch Marine / drums
●Numbers
1. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
2. With a Little Help from My Friends
3. Lucy in the Sky with Diamonds
4. Getting Better
5. Fixing a Hole
6. She's Leaving Home
7. Being for the Benefit of Mr. Kite!
8. Within You, Without You
9. When I'm Sixty-Four
10. Lovely Rita
11. Good Morning, Good Morning
12. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)
13. A Day In The Life
14. Strawberry Fields Forever (bonus track)
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コメント
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この盤は感動しました!
貴重な情報ありがとうございます。
ビートルズのインストカバーはMike Miller の「Save The Moon」でのI’m The Walrus がMy best favorite でしたが…
今年はビルフリも、ジョンスコも、メセニーもビートルズナンバーを新譜で取り上げていますね。
ビートルズ再結成の噂をこみみにはさんだ覚えがあるのですが、もしかしたら、とうとう実現するのでしょうか???(レノンのJrと、J.ハリソンのJrが参加するらしいです)
ではでは
投稿: betta taro | 2011年11月21日 (月) 20時38分
betta taroさま
亀レスご容赦願います。
ほんとうにこの盤は素晴らしいですよね。
記事にした某レビュアー氏は本当にオリジナルを聴いたことが
なかったようで、諸先輩方からおしかりを受けていたようです。
知らないことはたくさんあるのは当たり前の話で、知らなければ謙虚に受け止めることが
大切だなと思いました。
自戒の念をこめて。
ビートルズ再結成の話は、もう徳川埋蔵金のレベルのお話なのかもしれません。
投稿: 奇天烈音楽士 | 2011年12月29日 (木) 12時20分