奇才と奇人の邂逅Bleckmann&Monder「No Boat」
Musician●Theo Bleckmann(voice)
Title●No Boat(1996年)
■ディスクユニオンで購入
「七色のヴォイスをもつ男」ドイツ出身の異能のボーカリスト、Theo Bleckmann(テオ・ブレックマン)とNYの先鋭的なジャズシーンで活躍する光速アルペジオの名手Ben Monder(ベン・モンダー)による共同作品です。参加メンバーはSkuli Sverrisson(ベース)、Jim Black(ドラム)。というまた一癖もふた癖もあるようなメンツです。
このアルバムの最大の聴きどころは何といってもBleckmannが生み出す「七色のヴォイス」とMonderによる浮遊感あふれるギタープレイとの何とも幻想的な絡みです。Bleckmannの声は時には宗教音楽的であり、時にはヨーデル風であり、時には狂気を秘めた前衛音楽的とまさに変幻自在。ボーカリストではなく「Voice」とクレジットするあたりに、強烈なこだわりを感じさせます。
対するMonderは基本的にはフリー系のジャズギタリストになりますが、唯一無比とも言える「高速アルペジオ」が持ち味という超個性派プレイヤーです。基本的にはクラシックの素養に裏付けられた哲学者然とした静寂の世界を築き上げるプレイヤーですが、2曲目の「Gemini」のように、Robert Frippばりの強烈なソロを聴かせるなど、まさに変幻自在。そんなMonderが作り出す独自の浮遊感あふれるプレイに合わせるかのように、逆にわざと外すかのようにBleckmannのヴォイスが縦横無尽、天衣無縫に飛びまくります。まあ、変な楽曲といえば確かにそうで、脱力系、非肉食系のフリーフォームが延々と続きます。そういえばリズム隊も陰でこそこそと変な音を出し続けています。これが、まったくの定型無視の無政府状態なのです。
いわば「現代ジャズの奇才」が手持ちの表現力をフルに披露しているこの作品は、音の万華鏡と表現すれば聞こえはいいのかもしれませんが、とても一般的な作品とは言えないでしょう。ともあれECMニューシリーズあたりに親和感をもつ方なら意外とすんなり溶け込めるかもしれません。
ちなみにBleckmannは音楽以外にも、ダンスやオフ・ブロードウェイの舞台出演、映画『メン・イン・ブラック』の宇宙人の声役など、NYのパフォーマンス・アートの分野での活躍も知られているとか。突き詰めて追いかけていくとさらに新しい発見があるかもしれませんね。
●Musicians
Theo Bleckmann / voice
Ben Monder / guitars
Skuli Sverrisson / bass
Jim Black / drums
●Numbers
1. Late Green
2. Gemini
3. No Boat
4. O.K. Chorale
5. Polyhedron
6. Out Of This World
7. Mercury
8. E.K.
9. Canady Hill, Waiting For Impact
10. Every Time We Say Goodbye
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