ジャズロックアルバム厳選600!
Written by●松井 巧
Title●JAZZ ROCK Selected 600titles of albums(2008年)
■有隣堂アトレ恵比寿店で購入
1960年代後半から70年代中盤にかけてイギリスを中心に巻き起こった「JAZZ ROCK」ムーヴメント。一般的な解釈(?)として70年代中盤あたりに主にGeorge BensonやLarry Carltonなどのギターミュージシャンが牽引した「クロスオーバーブーム」「フュージョンブーム」に行き着くまでの「過渡期」にある音楽ジャンルとされているようです。なるほど時系列的な解釈では当たっていると思いますし、それはそれで構わないと個人的にも思います。ただ、そもそも「JAZZ」と「ROCK」をただ安易に合体させただけの定義付け自体が怪しげであり、また言葉づらをとらえると実にさまざまな見方も出てきます。「JAZZっぽいROCKなのか」「ROCKっぽいJAZZなのか」「JAZZとROCKの混合系なのか」「ROCK(JAZZ)出身のミュージシャンがJAZZ(ROCK)にアプローチするとJAZZ ROCKと言えるのか」…。などなど言葉のイメージだけでもいろいろと考えることができるのです。
また、ややこしいことにKing Crimsonの登場によって1960年代後半から巻き起こったプログレッシヴ・ロックの勃興があり、さかのぼればアート・ロックと呼ばれる一派もありました。プログレッシヴ・ロックやアートロックをJAZZ ROCKと明確に切り分けすることができるかというと、実はこれが難しいことで、お互いが相互に影響し合っていることを考えると、ではあらためて「JAZZ ROCKってどんな音楽ジャンルなの?」という問いかけに対する明確な解答など到底出し得ないと思いますし、またその作業自体に意味があるのかと言うと、実はあまり意味がないと思うのです。
また、さらにややこしいことにいわゆる「JAZZ ROCK愛好家」(?)の人たちに向かって「これってJAZZ ROCKですよね」とうっかり話しかけてしまうと、「いや、その解釈は甘い!」と一蹴されることもあります。これはその人の内面で「JAZZ ROCKはかくあるべし」という判断基準が確立されているために起こる出来事ですが、ではその判断基準が一般化されているかと言えばもちろんそんなことはありません。極端に言えばJAZZ ROCK愛好家の数だけ、解釈があると言ってもいいかもしれません。JAZZ ROCKにまるで関心がない人たちから見れば、ともすればセクト主義にも映る偏狭さは傍から見ると「何なんだ、この人たちは!」と奇異に感じられるようです。
本書はそんなさまざまにややこしい事情(?)を抱えているJAZZ ROCKという音楽ジャンルに対して、名盤600枚を紹介してしまうという暴挙に出ています。当然のことながら、「これってJAZZ ROCKじゃやないよ」「このアーティストやアルバムが載らないのはオカシい」などという意見が出てくることは承知のうえでの上梓なのでしょう。大変勇気がいる仕事です。実際、Amazonでの本書に対するレビューをのぞくと案の定、それに似たコメントが寄せられています。どのみち、1人のライターがこういう類の本を手がけるということは、その人の趣味趣向を反映していかないとできないわけで、「偏向」することなどは当たり前のこと。にも関わらず意中の作品が載っていなかったり、逆のケースが起きることは織り込み済みの問題ではないかと思うのですが。
本書の構成は
□「Jazz Rock Core Artists」
□「UK Jazz Rock」
□「USA Jazz Rock」
□「Euro Jazz Rock」
□「Related UK Rock,etc」
□「Free,Avant-Garde」
□「Straight Jazz」
と分かれていて、巻末にはジョン・マクラフリンとジョン・ハイズマンのインタビューが収録されています。
作品個別の紹介はジャケット写真(原則として初回オリジナル)、リリース年、簡単な解説が書かれているのみですが、なぜか右上にチェック欄が設けられているのが、マニア心をくすぐります。このチェック欄は「あなたは知っていますか」「あなたは聴いたことがありますか」「あたたは所有していますか」などとさまざまな解釈、利用法が可能ですね。
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