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2010年8月17日 (火)

良きジャズロックのナビゲーター

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Writen by●中山康樹+ピーター・バラカン+市川正二
Title●ジャズロックのおかげです(1994年)
■有隣堂で購入

これは、あくまでも個人的な考え方です。

音楽にしても映画にしても、それらを楽しむにあたって必ずといって存在するのが「入門書」です。特にJAZZと呼ばれるジャンルは一般的にはあまり情報がないため、いざJAZZを聴きたいと思っても、いったいどんなミュージシャンの、どんな作品を聴きたいのかがわからないケースが多いのではないかと思います。なかには私がJAZZ好きということを聞きおよんで「どんなJAZZを聴いたらいい?」と直接尋ねてくる人もいます。

でも、そんなこと私に聞かれても困るんだよね、というのが偽らざる思いです。だって、そもそも音楽に限らずおよそ芸術に親しむということは、受け手の問題、感性のありようの問題であって、私は相手の「感性の代弁者」ではないわけですから。だから、答える「手がかり」がまったくないわけです。

しかし、私が返答に躊躇していると、多くの人は怪訝な表情をするばかりか、なかには「あんたは不親切だ」と言わんばかりの反応を見せる人も。いやいや、あたしゃそんなつもりではないわけですよ、と。それにあたしゃ一介の勤め人であって、その道のオーソリティーでもなんでもない。それに、あんたの感性どころか人となりだったわかっていないんだよ、と。そんなやりとりが面倒になってきたので、最近では自分の音楽的趣向はあまり表明しないようにしています。

話がそれかけています。とは言いつつ、日本人は「知識から入る人」が多いように思います。だから、音楽に限らず「入門書」の類が相変わらずもてはやされるのでしょう。しかも、入門書はクラシック音楽に多いようです。クラシックは歴史が長いだけに現在進行中の作品を除けば「完成系音楽」として年代別、国別、流派別(?)などにカテゴライズが容易です。ですから、タテにヨコに整理して割っていけばドンドン書籍化、商品化が可能なわけです。ディアゴスティーニ戦略ではありませんが、細分化された「音楽的知識」を定期的に少しずつ獲得していくと、最終的には「音楽的教養」が身につきますよ、という塩梅です。

誤解を恐れずに言いますと、そうやって一生懸命に獲得した「音楽的教養」っていったい何だろうと思います。音楽ってそれほどまでに「努力」しないと、楽しむことができないのでしょうか。そもそも音楽を楽しむにあたって「入門」「初心者」という定義付けが必要なのでしょうか。じゃあ「上級者」っていったいどんな人なのでしょうか。要は自分のそのときの気分に任せて、好きな音楽を聴けば、それがその人にとって「ベストチョイス」なのではないでしょうか。中学・高校の音楽の授業で「音楽史」の時間がたまらなく退屈に感じられたのは、根本的にそんな思いがあったからではないかと思います。そんなことをするよりも、たくさん音楽に触れて、歌ったり楽器に親しむことのほうが重要ではないでしょうか。

さて、JAZZというジャンルが生まれてからおそらく1世紀が経とうとしています。最近ではクラシックと同様に、JAZZをカテゴライズ化したうえで「JAZZ的音楽的教養」として商品化しようという動きが顕著になってきています。これは関連書籍に限らず、たとえば店側が用意した「JAZZ名曲100選」なんていうパッケージ商法も同じ発想から生まれたものではないでしょうか。これらを一通り聴けば、あなたもイッパシの「JAZZ通」ですよ、という塩梅です。

こうした流れを全面的に否定するつもりはありませんが、一方でお店が用意した器にそのまま乗ってどうするのよ、という思いもあります。JAZZって本来、そんなに窮屈で狭いものでしたかね、という素朴な疑問です。豊かな知識=豊かな教養と考えがちな人にとって、本来はJAZZって対極の位置にあると思うのですが。

前書きが長くなってしまいました。本書はJAZZの中でも世間的には「亜流」と捉えられがちな「ジャズロック」の名盤をカタログ的に紹介したものです。中山康樹、ピーター・バラカン、市川正二の3人がそれぞれ自分が好きなジャズロックのアルバムを紹介するという内容です。あえて亜流としてのは、JAZZのメインストリームを語るうえで、必ずといっていいほ「キワモノ扱い」されるのがジャズロックだからです。

この本が素晴らしいと思うのは、2点。「ジャズロックとは」をまとめて定義付けしようとしていない編集方針です。3人がそれぞれ好きなアルバムを羅列だけしておいて、後は読者の好き勝手に委ねようという考えです。そして3人はもちろん、編集サイドもこのうえなくジャズロックを愛しているという点です。何というJAZZ的で自由な編集方針なのでしょう。したがって定型的、網羅的にジャズロックの知識を獲得したうえで、教養的に接しようという人にとってはお勧めできません。「ジャズロックってどんな音楽なの?」「どんなミュージシャンがお勧めなの?」という視点で読むと、確実に混乱してしまうからです。いろいろな意味を含めて、JAZZやジャズロックを教養化しようという悪しき風潮に対して強烈なアンチテーゼを投げつける痛快な一書です。

ちなみに見返しのサックス奏者はSteve Marcusです。チョイスが渋い!
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