カブト虫たちが大人になったRevolver
Musician●Beatles
Title●Revolver(1966年)
■ディスクユニオンで購入
たまにはメジャーなアーティストも。ビートルズのリマスターボックス盤が昨年発売され、3万円近くする高価な商品にもかかわらず売れに売れて、一時期は店頭から姿を消したことで大いに話題になりました。モノが売れないとどの業界でも青息吐息の状況でも、やはり買いたいモノ、良質なモノは売れるのだと感心しました。
私はビートルズ同時体験世代ではありませんが、それでも中学の頃は聴きに聴きまくっていたので、洋楽体験のひとつの核になっていることは事実です。数ある彼らのアルバムの中で1作品だけ好きな作品をあげよと言われると、その奇天烈さ加減でこの「Revolver」が真っ先に思い浮かびます。ただし、「ボックスセット、大人買い」という中年男特有の行動をとれるほど財力に余裕があるわけではないので、気になるアルバムをバラで買い求めようと考えています。
私のような人間がいまさらとやかく述べるのも噴飯モノですが、このアルバムはアイドルとしての扱い、過酷なコンサートスケジュールに飽き飽きとしていた彼らがアーティストとして初めて志向して臨んだ作品です。アーティスト志向は何となくなく「ラヴァー・ソウル」で兆候が感じられましたが、このアルバムで本格化した印象です。どちらにしても中期ビートルズを語るうえで欠かせない問題作だと思います。
後に彼らが告白したように、すでにドラッグを通した精神世界を音楽で再現しようという試みが随所で見られます。ドラッグと音楽をリンクする試みは、後のヒッピームーヴメントを生み出し、ジミ・ヘンドリックス、ドアーズ、ジャニス・ジョプリンなどの60年代後半を代表するアーティストに継承されるのです。また、音楽上での実験的なアプローチという点では、キング・クリムゾンやイエスなどのプログレッシヴ・ロックやヴァニラ・ファッジなどのアートロックにも影響を与えます。
ストリングスやブラスの導入、テープの逆回転、エフェクターの多用などは、さまざまなカテゴリーに分かれていったロックが取り入れた手法であり、それを1966年という時代でなしえた彼らの先見性にはただ驚くばかりです。
個人的には、後のハードロックにもつながる「Taxman」での強烈なリフとソロで脳天を打ち抜かれたような衝撃をいまでも覚えています。これはあくまでも噂ですが、ギターソロはJeff Beckであるという都市伝説が流れています。スタジオ裏口からトボトボと引き上げていくJeff Beckが目撃されたとか、されていないとか。そんな不名誉な噂が囁かれるほど、ジョージ・ハリスンは輝いています。
ドラッグ世界そのままの「Tomorrow Never Knows」のサイケデリックなアプローチもいま聴いても新鮮です。テープの逆回転を取り入れたギミックは「Revolver」以前もほかのミュージシャンが取り入れていましたが、元アイドルの彼らが導入したことで、以降、多くのグループがこぞって真似をしました。サイケムーヴメントの夜明けですね。
<追記>Twitter仲間の方から「Taxman」のギターソロはPマッカートニーだとご指摘をいただきました。確かにマッカートニーは何でもこなせますし。自分が作った曲での最大の見せどころを先輩に譲ったハリスンの心境はどんなものだったのでしょう。
●Numbers
1. Taxman
2. Eleanor Rigby
3. I'm Only Sleeping
4. Love You To
5. Here, There and Everywhere
6. Yellow Submarine
7. She Said She Said
8. Good Day Sunshine
9. And Your Bird Can Sing
10.For No One
11.Doctor Robert
12.I Want to Tell You
13.Got to Get You into My Life
14.Tomorrow Never Knows
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コメント
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とても明快な解説で、このアルバムの良さを再認識しました。
どちらかというと初期のロックンロールの色合いが強い時代の作品が好きですが、と言いつつGET BACKも好きなんですが、Revolverはちょっと中抜気味で、でもまた聞こうという気持ちになってきました。
このあたりの作品は、洋楽に目覚めた坊主アタマの中学生には難しすぎたのでしょう。
そう言えば、ポールはイングランドを応援しているんでしょうかねえ?
投稿: 鉄と馬 | 2010年6月26日 (土) 22時31分
鉄と馬さま
コメントありがとうございます。
個人的には「仕上がった完成品」よりも「完成途上のもの」を好むような気がします。
Twitterでご指摘を受けたのですが「Taxman」のソロギターはマッカートニーによるものだそうです。これは初耳でした。ハリスン作の曲ですから、当然本人が弾いているものだと思っていましたから。いちばん目立って美味しいところをもっていくのは、いかにもマッカートニーらしいとあらためて思いました。
投稿: 奇天烈音楽士 | 2010年6月27日 (日) 12時30分