バリトンGを導入した意欲作「Wardenclyffe Tower」
Musician●Allan Holdsworth(guitar)
Title●Wardenclyffe Tower(1992年)
■ディスクユニオンで購入
テクニカル系&変態系ギタリスト、Allan Holdsworth(アラン・ホールズワース)が1992年にリリースした作品です。1989年「Secret」以来ですから3年ぶりの新譜ですね。この作品からポリドールに移籍して、新境地を開いたか? と大いに期待をもって購入したことを覚えています。
心機一転して取り組んだこの作品では、29のフレットを持ち、通常のギターよりも3度低い最低音が出せるという「バリトンギター」を新規導入しています。このバリトンギターによるプレイは最後の1曲のみ「Oneiric Moor」ですが、残念ながら個人的にはピンときませんでした。あえて酷評すると空回りの感がします。同時期のライブ音源を聴くとやはりバリトンギターを多用していましたが、それ以降はまったく使用していないことから、単に御大ならではの気まぐれだったのかもしれません。
また、「Sand」以来好んで使っているシンタックスも4曲ほどで使用。だいぶこなれてきたようには思いますが、それでも「生のギター」の表現力には遠く及ばないように思えます。個人的な思いとして、ギター弦の音をわざわざシンセに置き換える意味がどうしても理解できないのです。確かにギターシンセは音の空間的な広がりをもたらしますが、せっかくの熱い思いが、シンセを経由することで半減してしまうような気がして仕方がないのですが。
最後の3曲は日本盤のみのボーナストラックになっていて、「Tokyo Dream」「The Unmerry Go Round Part4」「The Unmerry Go Round Part5」の新バージョンを聴くことができます。それでもシンタックスを多用した「Tokyo Dream」を聴くと、やはりオリジナルバージョンのほうが数段印象的だったな、と思わざるを得ません。
そんなわけで聴く人の耳は正直なもので、このアルバムは「Road Games」 や「Metal Fatigue」ほど売れなかったそうです。意欲は買えるけど、オーディエンスが求めるものと微妙にミスマッチを起こしていたのでしょう。しかし、同時期のゲスト参加、たとえばChad Wackermanのリーダー作では実に素晴らしいプレイを聴かせています。ゲスト参加では素晴らしいけれど、肝心のソロ作品では…と指摘され始めたのもこの頃からではないでしょうか。これは思うに御大の作曲能力の欠如によるものだと思うのですが。
さて、このアルバムでは会話というか「呟き」が随所に使われています。呟き、いまでいうTwitterですね。その言葉の内容というよりも、SE的な使われ方だと思うのですが、極めつけは1曲目「5 to 10」のエンディングで「I Hate Jazz!」(私はジャズが嫌いだ)という声です。これがホールズワース本人によるものかはわかりませんが、ちょっとしたアイロニーというか洒落なのだと思います。もとよりジャズとロック、ジャズとプログレの境界線を彷徨してきたギタリストだけに、いまさら好きも嫌いもないと思うのですが、あえて「ジャズは嫌い」と呟くことで、受け手の反応を楽しんでいるのではないでしょうか。ちょっとした愉快犯のようなものです。案の定、日本盤のライナーを書いた成田某氏がもっともらしいことを書いていますが、まさに御大の術中にはまってしまっています。たぶん、御大はシメシメとほくそ笑んでいることでしょう。
●Musicians
Allan Holdsworth / guitar,synthaxe
Jimmy Johnson / bass
Chad Wackerman / drums
Steve Hunt / keyboards
Gary Husband / drums
Vinnie Colaiuta / drums on Against the Clock
Naomi Star / vocals on Against the Clock
Gordon Beck / keyboards on Tokyo Dream,The Unmerry Go Round Part4
●Numbers
1. 5 to 10
2. Sphere of Innocence
3. Wardenclyffe Tower
4. Dodgy Boat
5. Zarabeth
6. Against the Clock
7. Questions
8. Oneiric Moor
(Bonus Track)
9. Tokyo Dream
10.The Unmerry Go Round Part4
11.The Unmerry Go Round Part5
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