JOHN ABERCROMBIE / ARCADE(1979年)
Musician●John Abercrombie(guitar,mandolin)
Title●Arcade(1979年)
■Tower Recordで購入
ECMを代表する知性派ギタリスト、John Abercrombie(ジョン・アバークロンビー)は70年代後半から80年代初頭にかけて、名門ボストン・バークリー音楽院からの盟友と組んで素晴らしい作品を残しています。この時期のアバクロの3作品を勝手に「アバクロ耽美系3部作」と呼んでいますが、その1作目が今回紹介する「Arcade」です。参加メンバーは、Richie Beirach(piano)、George Mraz(bass)、Peter Donald(drums)というカルテット構成。1978年の12月14日、15日にオスロで録音されています。しかも、15日にはトラックダウンも完了してしまうという素早い仕事で制作されています。
1曲目「Arcade」は後にオーバーダブされたアコギとアバクロお得意のマンドリンとの絡みで静かにスタート。後にスネークインしてくる硬質なバイラークのピアノとの相乗効果で緊張感あふれる展開へと一変します。マンドリンがひとしきり悲しい調べを叫んだのち、メインテーマへと収束しクールダウン。何とも心憎い展開です。
2曲目「Nightlake」はこれもアバクロが好んで導入するワルツ風の小曲。これもマンドリンがリリカルなソロを奏でたあとに、バイラークのこの世のものとは思えないほどの美しさを湛えたピアノが引き継ぐ形で劇的な展開を迎えます。いやいや、ただただ美しいだけです。
3曲目「Paramour」はアバクロの心優しいソロとバイラークのピアノが絡み合うという彼らお得意の展開。バイラークはかのビル・エヴァンス、アバクロはジム・ホールをそれぞれ私淑していますが、大先輩が残した足跡を彼らなりに解釈したうえで、素敵な楽曲へと昇華させています。中間のジョージ・ムラツのベースソロも曲の美しさを盛り上げるうえで最大限の効果をあげています。
4曲目「Neptune」はバイラークによる曲。北欧の冷たい空気感を想像させるバイラークのピアノから始まり、ムラツの優しいベースライン、そして浮遊感たっぷりのアバクロのサスティーンが利いたソロが美しく絡み合います。まさに耽美系の真骨頂といえるでしょう。
ラスト「Alchemy」もバイラークの曲です。曲調としては「Neptune」と同様にやや硬質なテーマからスタートしますが、アバクロのソロが入ってくると一転し、一面が耽美色で支配されます。そして、リズム隊が機能し始めると、やがて劇的なフィナーレへと誘われます。アバクロによるこれ以上は伸びきれないと思われる強烈なサスティーンソロに耳を傾けていると、やがて桃源郷の世界へと導かれていくはずです。
このように一切の「捨て曲」がない素晴らしい作品なのですが、ECM総裁マンフレッド・アイヒャー氏とバイラークとの曲の解釈を巡る確執から、バイラークが参加しているという理由だけで、長い間CD化もままならないまま廃盤状態にありました。それが2001年に日本限定でCD化されたことは、ファンにとって望外の喜びでした。この勢いで続く「Abercrombie Quartet」「M」の復刻も期待しているわけですが、10年近くたった今、その気配は一切うかがえません。「Abercrombie Quartet」「M」でも触れましたが、アイヒャー氏もいい加減大人になって、この素晴らしい3部作を再び世に送り出してほしいのですが…。
●Musicians
John Abercrombie / guitar,electric-mandolin
Richie Beirach / piano
George Mraz / bass
Peter Donald / drums
●Numbers
1.Arcade
2.Nightlake
3.Paramour
4.Neptune
5.Alchemy
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コメント
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アバクロ先生のECMでの初期作品という意味でArcadeは外せない作品ですね。
LP(廃盤)でしか入手できないジャズギター弾きの間でひそかに人気のあるスタンダード集「Direct Flight」も本作同じく1979年リリースですね。
Direct Flightは音的には現在のアバクロ先生とは異なる伝統的なジャズギター音で弾いているのに対して、Arcadeは音的には現在のアバクロ先生の演奏に通じるものがありますね。
どうやら78年(録音時)あたりが、現在のアバクロ先生の音が確立される時期になる様ですね。
ですが、まだ上述2作の時点ではピック弾きスタイルで、現在の変則2本指奏法?には至っていませんね。
この後ECMでキラリ光る作品群を連続してリリースする最初の一歩と思ってArcadeを聴くと、感慨ひとしおです(^ ^)y
投稿: betta taro | 2010年2月21日 (日) 09時33分
betta taroさま
コメントありがとうございます。
マンドリンを駆使するのもこの時期のアバクロの特徴ですね。
「Direct(Straight) Flight」は1979年3月19日、20日の2日間でレコーディングしていました。スタジオはハリウッドだそうです。オスロで録音したECMと比べると、ロケーションが違うだけでも、こうも雰囲気が変わるのですね。
投稿: 奇天烈音楽士 | 2010年2月22日 (月) 21時18分
確かにコメントされた様にDirect Flightでも、A面の最後の曲をマンドリンで弾いてますね。
(Marc Ducretデビュー盤「柱の理論」のマンドリンの使い方は、ECM初期アバクロ先生のアプローチに似ている気がします。もしかすると影響を受けているのかもしれませんね… 「柱の理論」の盤全体の雰囲気からしてECM的にも思えますし…)
ギター音的には現在のスタイルに近いArcadeがまず78年に録音され、79年のDirect Flightの録音では箱鳴り感のある伝統的なジャズギター音に近いという事は…
アバクロ先生がギター音の試行錯誤を78年~79年の間に行っていたという事になりますね。
更に、もしかすると、アイヒャー氏のプロデュースによって現在のアバクロ先生のギター音が確立したのかもしれませんね。
実に興味深いです!
投稿: betta taro | 2010年2月22日 (月) 22時15分