JOHN ABERCROMBIE / M(1981年)
Musician●John Abercrombie(E Guitar)
Title●M(1981年)
■ディスクユニオンで購入
ECMを代表するギタリスト、John Abercrombie(ジョン・アバークロンビー)は70年代後半から80年代初頭にかけてバークリー音楽院からの盟友Richie Beirach(リッチー・バイラーク)と組んで3作ほど素晴らしい作品をリリースしています。アバークロンビーお得意のサスティーンを利かせた浮遊感あふれるプレイと、ビル・エヴァンス直系のバイラークによるリリカルなプレイとの絡みが実に美しく、個人的には「アバクロ耽美系3部作」として勝手に称賛しています。別の機会で詳しく述べるつもりですが、バイラークとECM総帥アイヒャー氏の確執の煽りをもろに受けたため、バイラーク参加のこの3部作も長らく廃盤状態になっていました。ところが3部作の1枚目「Arcade」 が突然CD化され一部ファンの間では「やっと雪解けムードか?」と騒がれましたが、続く「Abercrombie Quartet」と本作「M」はいまだに廃盤状態です。したがって、アナログの中古を入手する以外方法がないのです。
さて、3部作の最期を飾るこの作品ですが、一切の「捨て曲なし」のオール耽美系ジャズの傑作といって過言ではありません。これでもか、これでもかと究極の美しいフレーズを生み出すアバクロ、あくまでも透徹した世界を築くバイラークとの絡みは、譬えようもない美しさにあふれています。この両者の美しい会話にECM特有の透徹感と透明感が加味されることによって、素晴らしい作品に仕上がっているのです。1曲目「Boat Song」はアコギによる静かなスタートを切りますが、次第にアバクロの幽玄なソロとバイラークの静かながら内面に情熱を秘めた対話が繰り広げられます。凍てつく北欧の風景が目前に広がるような錯覚を覚えます。続くアルバムタイトル曲でもある「M」はまさにECMという感じで4人の職人が恐ろしいまでに研ぎすまされた美しい旋律を束ね、見事な佳曲に仕上がっています。B面のオープニングを飾る「Flashback」はバイラークによる曲ですが、長閑な雰囲気で始める冒頭からピーター・ドナルドによる合図から一転して変拍子を多用した激しいアップテンポの曲に。乱打を続けるバイラークとアバクロのソロとの応酬、そしてその2人の戦いをさせる強力リズム隊による緊迫した雰囲気は、このアルバムでの一番の聴きどころです。
しかしながら、前述のように「大人の事情」によっていまだに廃盤状態にあることは、文化的にとまでは言いませんが、少なくともECMにとっては大きな損失であることは間違いありません。何とか復刻がならないでしょうか。
これは余談ですが国内盤は確かTrioレコードから発売され、タイトルは「ラプソディー」と付けられましたが、帯に印刷されたレスポールを手にしたアバクロの写真が「裏焼き」(裏表が逆に印刷されるという編集上のミスで、見た目が左右反対になってしまいます)になっていました。知らない人が見たら、アバクロは左利きのギタリストということに誤解されてしまいますね。
●Musicians
John Abercrombie / guitar,e-mandolin
Richie Beirach / piano
George Mraz / bass
Peter Donald / drums
●Numbers
1.Boat Song
2.M
3.What Are The Rules
4.Flashback
5.To
Be
6.Veils
7.Pebbles
« 超絶ギタリストBrett Garsedの初録音(Adrian's Wall) | トップページ | 偽物でもここまで徹すると偉い!The Bruford Tapes »
「ジャズギター」カテゴリの記事
- David Gilmore / Transitions(2017年)(2017.04.08)
- Kurt Rosenwinkel / Caipi(2017年)(2017.04.02)
- Wolfgang Muthspiel,Mick Goodrick / Live At The Jazz Standard(2010年)(2016.08.06)
- John Abercrombie / Within A Song(2012年)(2016.07.03)
- Albert Vila / The Unquiet Sky(2014年)(2016.06.25)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
« 超絶ギタリストBrett Garsedの初録音(Adrian's Wall) | トップページ | 偽物でもここまで徹すると偉い!The Bruford Tapes »
古い記事にコメントしてすいません。
このアルバムについて書いてらっしゃったので、思わずコメントします。
このアルバム持っています。多分発売直後に買ったのかと(笑)
初めて買ったジャズ・ギターアルバムで、おかげでその後の音楽の趣味はだいぶひねくれてしまいましたが(笑)
この中のTo Beというアコースティックの曲が特に好きです。後に、Novemberというアルバムでも再演されてますが、こちらの方が全然いいです。
ホント、CD化されて欲しい1枚です。
投稿: Nicola | 2010年5月20日 (木) 12時52分
Nicolaさま
はじめまして。コメントありがとうございます。
私はこのアルバムが好き過ぎて日本盤とドイツ盤の2枚所有しております(笑)。
完成度が高いNovemberも好きですが、妙な臨場感が感じられる「M」のほうが私も好みです。
>おかげでその後の音楽の趣味はだいぶひねくれてしまいましたが(笑)
いや、全くの正統派だと思います(笑)
今後ともご贔屓にお願いいたします。
投稿: 奇天烈音楽士 | 2010年5月20日 (木) 23時49分
ついに再発されましたね!!
しかもリマスタリングされて3枚組で!!
「Arcade」をちょっと前にCDで買ったばっかりだったので少しくやしいけど、未CD化だった2枚はこのblogを読んでずっと気になっていたのでとても嬉しいです。
http://www.ecmrecords.com/releases/john-abercrombie-the-first-quartet/
投稿: 夏樹 | 2015年11月18日 (水) 15時57分
夏樹さま
コメントありがとうございます。
生きているうちにCD化されると思っていませんでした。某通販サイトに予約注文しているのですが、まとめ買い割引の組み合わせがうまくいかず、まだ手元に届いていません。
届いたら当欄であらためて取り上げるつもりです。
実は私も「Arcade」をつい最近買ってしまったクチです(^^;
投稿: 奇天烈音楽士 | 2015年11月22日 (日) 10時23分